私が、権利擁護・市民後見センター「らいと」において、法人後見事業の支援員として経験した二つの事例についてお話したいと思います。

 

~知的障害のある認知症のAさん~

 まず、はじめはAさん。72歳の男性です。脳血管性認知症がある知的障害者で、療育手帳A2を所有しています。結婚歴はなく子どももありません。
 19歳の時に、Aさんは同郷の男性に連れられて他県から北九州市内へ移り住み、以後50年間、その男性の支援を得て生活していました。
しかし、その男性も高齢となり、Aさんの世話ができなくなったことから、区役所に相談がありました。Aさんは、長年親族との付き合いがなく、唯一の親族である妹(すでに死亡されています)の夫に連絡をとったようですが、何の応答もなかったため、市長申し立てに至りました。
 家庭裁判所から当センターが成年後見人に選任され、私が担当者としてAさんに初めて面会したのは今から4年前のことです。当時、精神病院の認知症病棟に入院されていました。
 Aさんはさほど警戒する様子もなく私達に挨拶を返してくれました。
難しい表現の会話は理解できていない印象でしたが、抽象的な表現を避けて簡単な質問をすると、頷いたり、単語で答えてくれたりしました。
身体の麻痺はありませんが、歩行が不安定な為に車椅子を使っておられました。
今後も面会に伺う事を了解してくださったので、特別な場合を除き、月1回面会を行うこととしました。

~老人ホームに入所して生活環境が大きく改善!~

 Aさんは、当時、不衛生な環境で生活していたとみられ、全身皮膚疾患の状態でしたが、入院生活で完治し、徐々に歩行状態も改善し、室内では自立歩行ができるようになりました。
Aさんの様子も落ち着いてきたことから、今後について関係者で協議し、老人福祉施設への入所が検討されました。
Aさんの収入は障害年金のみで、車椅子を使用しておられたので、特別養護老人ホームに入所を申し込みました。
 成年後見人には医療同意権はありませんが、全般的な代理権は付与されていますので、入所が決まってからは、施設利用料などを支払ったり、買い物や散髪の回数にいたるまで日常生活に関する契約を行ったりしました。
 特別養護老人ホームの生活にも慣れてきたと思われる頃、Aさんは69歳の誕生日を迎えました。
「誕生日おめでとうございます。今日はAさんの誕生日ですよ。」と言うと、キョトンとして自分の誕生日を理解していない状況が見受けられました。
これまで地域福祉権利擁護事業で関わった方のほとんどは、喜んだり照れたりと何らかの反応がありましたがAさんはそうではありませんでした。

 

~豚の入れ歯をしている?!~

 また、入れ歯の違和感をさかんに訴えられる時期がありました。
知的障害があり、正確に症状を言葉にして伝える事ができないのかもしれません。
その都度、施設の方も歯科医に診察を頼んだりして対応してくれていたのですが、Aさんの違和感は収まりません。
ある面会の日、Aさんが自分の歯を指し「これは何の歯?豚の歯?」と、言われるのです。「これはAさんの入れ歯よ。歯が悪くなったので、代わりに歯医者さんが作ってくれたんですよ。豚の歯を入れていると思ってたの?」と言うと大きく頷かれるのです。
豚の歯を入れられていると思っていた為落ち着かなかったのかもしれません。
施設看護師から歯科医に報告してもらい、後日、歯科医からAさんに説明してもらうことになりました。
 誕生日の一件や、入れ歯を豚の歯と誤解していたことは、認知症や知的障害のほかにも一因があるのかもしれません。
4歳のときに実母と死別し、19歳の時に北九州市に連れてこられ、その後50年間を過酷な労働環境で働き続けるという、ある意味閉鎖的な環境で人生の大半を過ごしたAさん。
年齢は重ねていても社会経験が少ないのかもしれませんし、誕生日を祝ってもらうという家庭的環境にも恵まれていなかったのではないでしょうか。
 現在は、体操や集団レクレーションのほか、エプロンやおしぼりたたみなどの家事的な作業もすすんでされています。ボランティアの方に生け花や習字も習っておられます。
特に習字に関しては、読み書きが全く出来ないにも関わらず、今では小筆で見本を見ずに作品に名前を書けるまでになりました。施設の廊下に作品が展示されているのですが、面会に行った私に対して「見た?」と言われます。私が作品を見ているか確かめようとしているのです。
施設職員によると、生け花を習っている入所者は、男性ではAさんだけらしいのですが積極的に参加されているそうです。
先日の面会時、Aさんに、一番楽しいことは何かと尋ねると「全部楽しい!」と笑顔で言っておられました。
 知的障害と認知症の区別は 私には難しいところではありますが、これからの人生を心豊かに過ごして欲しいと考えています。
担当者として、Aさんの体調を考えながら、いろいろな経験が出来るように支援していきたいと思っています。

 

~認知症のあるBさん~

 次にBさん。84歳の認知症の男性です。結婚歴はなく、子どももいません。長く船員(機関長)として働いていたという以外は、詳しいことは不明です。心筋梗塞で倒れるまでは、自宅に友人が遊びに来るような人柄だったそうです。
身寄りがないため、市長申立により、当センターが成年後見人として選任されました。
 実のお兄さんとお姉さんがいることがわかりましたが、お二人とも高齢で認知症を発症しており、介護施設に入所しているそうで、その家族からも連絡はありません。
 Bさんは、現在、特別養護老人ホームで生活しておられます。
認知症のほかに失語症もありますが、簡単な会話をすることは可能です。
ほぼ月1回のペースで面会に行っておりますが、私たちのユニフォームである青いジャンパーの色で、なんとなく私の事を認識してくれている様子です。

 

~短期で乱暴な一面を持つ海の男!!~

 Bさんは、自分が気に入っている女性入所者の傍に座ろうとする他の男性入所者を殴ろうとするなど短期で乱暴な面もあり、トラブルになることもあります。
関係者にとっては心配なことですが、考えようによっては人間らしい気持ちを失ってはおられないのかもしれません。
 Bさんがおられる施設はかなり年数が経過していて、同じ料金を支払うのならば新しい設備の整った所に移ったほうがよいかもしれないと検討した事もありました。
しかし、自室からも共有のスペースからも海が見えるこの施設で、Bさんは、大きな船の往来をよく眺めておられます。施設の職員からも、Bさんが海や船の話をされているという話を聞きますと、このままお世話になろうかと現在のところは考えています。

 

~ご本人の立場に立ってモノ申すことも・・・~

 以上、お二人の事例を書きましたが、後見業務の担当者として判断に迷うことは多々あります。
もちろん、法人の下で活動していますので、センターの専門員に相談しながら支援はしていますが、私の個人的な考えとして「もし私の親だったら・・・兄弟だったら・・・親戚だったらどうか。」と思うようにしています。
 時には、関係者に言いにくいことを言わなくてはならないこともあります。
例えば、ひげが伸びたままだったり、着ている服に古い汚れがあったりするなどご本人の身の回りのことが目につくこともあります。
普段からお世話になっているうえに、施設職員の方の忙しいことは承知しています。しかし、ご本人のことを考えれば身支度を整えてくださるように無理を言ってお願いをしたりすることもあります。
成年後見人は 隣近所に住む親族のようにいつも傍にいてご本人を見守れるわけではありません。だからこそ、関係者やご近所の方々、遠方に住んでいる親族等と連携を取りながらご本人を支えていく姿勢と、ご本人を見守る客観的な目を失ってはならないと考えています。

 


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